第20章 春雨編 (注:R18 本番なし)
「……澪じゃないか。今、帰りか?」
「へ?」
そんな事を考えていると、
前から長い黒髪が見える。
「……若!」
柳生家の一人娘、柳生九兵衛だった。
若は買い物をしたらしく
手には可愛らしい袋を持っていた。
「妙ちゃんと遊んだ帰りなんだ。
澪、帰るところなら一緒に帰ろう。」
「…………いや、俺は、」
普段だったら楽しく歩いたであろう若の隣は
今の俺には危険信号にしか見えなかった。
俺が周りを見ると
やはり電柱の後に人の気配を感じる。
ここにいては、マズい。
「…………どうしたんだ。
キョロキョロして。」
若が不審そうに首を傾げる。
もし若が今の俺の状況を知ったら、
きっと若は俺を助けようとするだろう。
その結果、もし負けたら?
若が怪我をしたら?
最悪の結果が頭をグルグルと回り
鳥肌が立った。
それだけは…………
それだけは、避けなくては。
「えっと…ゴメン。まだ仕事なんだ。」
「…そうなのか。」
「先帰っていてくれ。終わったら
すぐ、帰るよ。」
「………そうか………………。」
若が残念そうに眉を落とす。
俯いた顔はとても悲しそうで俺も辛くなる。
近藤局長の下についてから、
俺の業務は増える一方で。
この前のトッシーの時は
仕事の日も出勤、
休みの日も澪子として
オタク集めに奔走していたためか
家にいる事は少なくなっていた。
「………澪は、
僕達と、真選組と
どっちが大事なんだ?」
ボソリと若が呟く。
「はぁ?何それ。」
思わず聞き返す。
俺にとって、真選組も柳生家も
とても大切な存在だ。
柳生家は俺の居場所だし、
若は護らなきゃいけない人だと思っている。
真選組も俺の力が発揮できる職場だ。
書類仕事は多いけど、その分密偵の仕事も多い
毎日忙しいけど、充実してる、と感じてる。
だから、そんな2つを
選べる訳無いのに。