第3章 過去編
出てきたのは若い男だった。
若いとはいえど、俺よりは年上だと思うが。
東城と呼ばれたその人は
目が細く糸のようだが、
その目から一応見えているらしく、
少女に声を掛けてきた。
そして、俺にも目を向ける。
「おや、拾われ浪士。目が覚めましたか」
「拾われ浪士?なんだそれ。」
そういえば、山の中で倒れていた所から
記憶が無い。
あの山、柳生家のようなでかい屋敷も街も
近くになさそうだったのにな。
思い出そうとしていると、
東城が不思議そうに俺に説明する。
「敏木斎様が会合に行っていた近くの森で
倒れていた貴方を見つけ、そのまま拾って
帰ってきたんですよ。
覚えていないのですか?」
ビンボクサイ?…なんだそれ、八宝菜か?
そういえば誰かが俺の前に立っていた
気がするけど…
「多分そう、かも?」
曖昧な返事をすると、東城は首を傾げた。
「…そうですか。
まぁ、敏木斎様が何かを拾ってくるのは
よくある事ですが、それが人間なのは
初めてなんですよ。」
「はぁ…。」
考え込む東城にこちらも首を傾げる。
ビンボクサイってもしかして犬なの?
なんか猫がゴキブリ拾ってきたみたいな
言い方されてるんだけどこれってどうなの?
「おじい様は柳生家の当主なんだけど、
勿体ないからっていろんなものを
集めてくるんだ。」
……………え?柳生家の当主?
え?ビンボクサイが??
犬じゃないの?俺てっきり犬かと…
「まったく敏木斎様の癖も困ったものです。
身元の分からぬものを柳生家に入れるなど
あってはならない事。」
東城がはぁ、とため息をつく。