第3章 過去編
「あのぉ…」
「?」
後ろから声がして、振り向くと、
黒髪の少年………?に会った。
「何だ。」
彼はチラチラと俺の方を見てから、
隣にしゃがむ。
「あの、な、名前とか…聞いてもいいですか」
俺の顔色を伺いながら、聞いてくる少年。
こっそり彼の鎖骨や体つきを盗み見る。
すると、男にはないなめらかさがあった。
……………、コイツ、女か。
少年改め少女から目を離し、
また鯉に目を落とす。
石を池に投げ入れると、
鯉が散って行く。
「澪。」
「?」
「名前。」
「……!あ、あぁ、澪さんって
言うんですね。」
ふむふむと納得したように頷く少女。
この子、男物の服着てるのに、
女なんて…おかしいよな。
少女がこういう趣味なのか、
それとも周りがそうさせてるのか……むむ、
謎は深まるばかり。
「お前こそ。」
「え?」
「名前は?」
俺が少女の方を見ると、
少女の大きな瞳が揺らいだ。
「あ、僕は、柳生九兵衛って言います。」
女なのに九兵衛なんて名前付けないよな普通。
うん。やっぱ事情持ち?
…というか、コイツらの両親は何してるんだ。
こんなでかい屋敷に子どもを遊ばせて………
って、待て。
いま、コイツなんて言った?
……………柳生?
「はぁぁあっ!!?」
「うわっ!」
え、柳生といえば、あの…
将軍家に仕える、金持ちの家じゃないか!!
「いやいやいや………ないないない………」
「あの……大丈夫ですか?
僕、何か変なこと……」
頭を抱える俺を少女がのぞき込む。
ちらりとその顔を見るが、
嘘をついている様子はない。
それに、柳生家だったら納得出来ることも
いくつかある。
先程の客間、広い庭、でかい屋敷……
全てが柳生家だったらありえる、で
片付けられるものばかりだ。
「………ん?」
向こうから足音が聞こえる。
歩くようなスペースの足音に敵意はなさそうだ
俺は立ち上がり、
出て来るであろう池の反対側を見つめた。
「若、こんな所にいらっしゃったのですね。」
「あ、東城。」