第10章 風邪編
(銀時視点)
「澪さんが江戸を走り回ってる?」
「そうなんだ。できたら捜索を頼みたい。
報酬は、僕が払う。」
突然柳生家の坊ちゃんが来たと思ったら
澪の話が飛び込んできた。
「いつもの事なんですか?
その…逃げ出すのは。」
新八が心配そうに聞く。
「ああ…。最初は、『何か足りない』と
言って部屋を歩き回る程度だったのだが…
徐々に範囲が拡大していって、
今では江戸も出そうな勢いだ。」
「『何か足りない』…澪は欲求不満アルか?」
神楽がこてんと首を傾げる。
「んなわけねーだろ。
澪は女にも恋にも興味ねぇ野郎だ。
欲求不満だったらもっと女に手を出してらぁ」
澪は恋に全く興味の無い野郎だ。
忍者は己の欲求を最大限に
制御しなければいけないとかなんとかで
女に情を揺らすことすらない。
「ま、無理に捕まえなくても
いいんじゃねーの?
澪はアホだが馬鹿じゃねぇ。
ちゃんと家に帰る方法だって
分かってるはずだ。
走り回りたいなら走り回らしときゃ
いいだろーが。」
「…確かに、そうかもしれないが……。」
坊ちゃんは俺から顔を背ける。
納得いかないという顔だ。
「銀さん、九兵衛さんは澪さんのこと
心配して言ってるんですよ。」
「新八くん…。」
「そうアル。酷いネ銀ちゃん。」
そうは言われても、俺は態度を変えない。
くるりと椅子をまわし、奴等に背を向けた。
「九兵衛さん、行きましょう。
銀さんはやる気無いみたいなんで。」
「…おーおー。勝手にしろ。」
諦めたように新八が切り出し、
神楽が九兵衛を連れて出て行く。
ガラガラと万事屋の玄関が閉まる音がする。
「はぁー…………。」
誰もいなくなってから俺は椅子を
また元に戻した。
「『何か足りない』ねぇ………」
俺には澪の『足りないもの』に
思い当たる物があった。
リビングを出て自分の寝室へ向かう。
ごそごそと押入れの奥の奥を探すと
1本の刀が顔を出した。
「澪………。」
刀はあの時のまま、だ。
澪は、無意識にこれを探しているのだろうか。