第10章 風邪編
これは、ただの好奇心だ。
元攘夷志士で、元柳生家の御庭番が
正直の所俺達の事をどう思ってんのか…。
少し前から気になっていたのだ。
ま、答え次第では斬るが、な。
いつもの神崎なら、ありふれた言葉で
俺を突き返して来るのだろうが…
今日はどうだろうか。
「おしごとのことですかー?
へへ、とってもたのしーです。
おれ、そしきとかうえのひとたちとか
よくわかんねーですけど。」
「そうか。」
熱でふらふらしながら言葉を紡ぐ神崎の目は
純粋そのものだった。
「それに、みんなやさしくて、だいすきです」
その瞳に心臓が一瞬跳ねる。
吸い込まれそうな茶色い瞳と
ふにゃふにゃと柔らかい笑顔。
なんだ、この、感情は。
「あ、もちろん、ふくちょーのことも
おれ、だいすきです。」
こんな時に自分を名指しなんて、ずるい。
ドキドキと心臓が高鳴る。
「きす、したいくらい。」
「なっ………!?」
言葉の意味を理解する前に
手を掴まれ、俺の足に神崎が乗る。
「おい、待て。本気……か?」
そう聞いても、神崎からは返事がなかった。
足に乗られている以上、
俺には逃げ場はなかった。
………いや、俺は逃げようとしなかった。
心臓が飛び出そうな俺を他所に、
神崎は冷静だった。
「………………んっ」
神崎の顔がゆっくり近づいてきて、
俺の唇に触れた。
「…………ふっ……」
女のような柔らかいモノが当たり、
そして、離れた。
「へへ、ごちそーさまです。
それじゃ!おれ、いきますね!!」
「……………っあ、オイ!!」
神崎は最後ににこりと微笑むと、
俺の自室を出ていった。
「…………………はぁ。」
顔も体も熱い。
頭をガシガシと掻くが
先程の感覚はホンモノで、忘れられそうにない
「………マジかよ。」
自分のこの感情が何なのかは分かっていた。
ただ、認めたくなかったのだ。
「男とキスして落ちるとか……有り得ねぇ。」
高鳴る心臓と火照る体は、
きっと神崎の熱のせいだろう。