第10章 風邪編
(土方視点)
「澪……あ、いや、神崎はどうでしたか?」
俺が電話を切って数十分後、
書類を持ってきた山崎が心配そうに聞く。
神崎が朝遅刻するなど今まで無かったことだ。
少し気になり、携帯にかけてみたのだが…
思わぬ事態になっているらしい。
「神崎は熱で休みだ。
近藤さんにも伝えとけ。」
「え、あ、了解っす。」
山崎は俺の部屋に書類を提出して
近藤さんの所に行った。
先程の熱の話は……まぁ、いいか。
もしかしたら、あの娘の早とちりかも
しれねェ。
神崎が暴走なんて………考えられねェな。
アイツは、そんな奴じゃない。
もっと、いつも冷静沈着で
剣の腕が立つ…………
「へへ、ふくちょーおはよーございますぅ」
ちらりと見ると、
頭に思い浮かべていた人物が目の前に現れる。
「うぉおおあっ……神崎!?
テメェどっから入って……!!?」
「え?てんじょーからひょいひょいって
きました!」
えへへ、といたずらっ子のように笑う
神崎の目はすわっていて、
顔も真っ赤に火照っており湯気が出そうだ。
何より、頭に貼られた冷えピタシートが
神崎が熱であることを示していた。
「天井からって…不法侵入で訴えるぞ」
「えへへ、うったえる?なんでですかー?
おれ、しごとしにきたのにー。」
笑いながらコテンと首を傾げるのは
子どものようにも見える。
「今日は熱で休むとお前の主人から聞いてる
さっさと家に帰りやがれ。」
「えっ…そうなんですか…………。
うう、わかのばかぁ……。」
しょぼん、と頬を膨らまして俯く神崎は
いつもと全く違い、調子が狂う。
まさに別人だ。
その言葉に、先程の電話を思い出す。
「仕事の時とそれ以外は別人……か。」
目の前のコイツは神崎なのだが、
俺の知っている神崎ではない。
つまり、『それ以外』の時の神崎だ。
「……神崎。」
「なんですかぁ?」
「俺達のこと、どう思ってんだ。」