第10章 風邪編
(九兵衛視点)
「東城!大変だ、澪が…!!」
澪の部屋の障子を開けると
東城が走ってきた。
「まさか、もう…ですか?」
「ああ。縄抜けされている。
もう布団はもぬけの殻だ。」
「……承知しました。すぐに、捜索隊を。」
東城は近くの門下生に声をかける。
まさか、電話に出た一瞬の隙を狙われるとは
不覚だった。
「すまない…。」
東城に謝ると、電話口から声がする。
『オイ、聞いてんのか?
神崎がどうかしたのか。』
「あ、あぁ。澪がいなくなった。
もしそちらに行ったなら連絡してくれ。
すぐに捕獲隊をむかわせる。」
『捕獲隊って…動物じゃねェぞ。神崎は。』
その言葉にハッと気付く。
「………そうか。君は知らないんだな。
澪が熱を出すとどうなるか………。」
副長は澪の上司にあたる人物。
知らせておいても構わないだろう。
『どういうことだ?』
「…高熱を出しているのに、
部屋を歩き回ったり寝ようとしなかったり
する子どもがいるだろう。」
『ああ…たまにいるな、そんな奴。』
「澪がそれなんだ。
しかも、部屋を歩き回るだけじゃ済まない。」
「澪は江戸中を暴走して、熱などないと
言い張り僕達から逃げ続ける。」
「僕としては家で寝ていてほしいんだ。
だから、縛ったり網で捕まえたり
色々やっているのだけど
澪も一流の忍者。縄抜けはお手の物で
全く効果がなくて…。」
話している途中で自分自身の無力さに
ため息が出る。
『はぁ…俺からは想像が出来ない話だな。』
「…澪は仕事とそれ以外の時とは
全く別人と聞く。君が想像出来ないのも
分かるが…」
電話の相手は僕の話を
あまり信じていないようだった。
とはいえ、澪は仕事を気にしていた。
真選組に行く可能性が高い。
「とにかく…見かけたら家に帰るよう
伝えておいてくれ。」
そう言って電話を切る。
あと、澪が行きそうな場所は………………
「…………相談してみる価値は
あるかもしれない。」
僕は江戸を周ってくると東城に伝え、
屋敷を後にした。