第10章 風邪編
(九兵衛視点)
「…澪はどうですか?」
「やっと寝たところだ。今のところは…な」
澪の部屋に東城が入ってくる。
すやすやと寝息を立てて眠る澪は
子どものようだった。
「さて、縛りますか。」
「ああ、そうだな…。
起きる前にやっておかねば。」
俺は東城の持ってきた縄に手をかけた。
ああ、読者の方。
そんな変な目で見ないでくれ。
何故縛るかは、澪が起きてから説明しよう。
「…ふぅ、こんな具合だろうか。」
澪の体を布団ごとぐるぐるに縛り付けた。
これで、少しは時間が稼げるはずだ。
「門下生に持ち場につくよう
指示をしてきますので、澪の事を
宜しくお願いします。」
「ああ。頼んだよ、東城。」
東城が澪の部屋を出ていき、
部屋は一気に静寂となる。
聞こえるのは澪の寝息と時計の針の音だけ。
……そして、微かに聞こえる電話の着信音…。
着信音?
「澪の携帯だろうか?」
澪の机の上に置かれた鞄から
携帯電話を取り出す。
案の定携帯は電話の着信がきており
プルルルと鳴っている。
画面には、『土方副長』と書かれていた。
………そういえば、真選組に澪が
休むことを連絡するのを忘れていた。
どうせならこの場で言ってしまおうと
電話に出る。
「…もしもし。」
『もしもし、神崎か?今どこにいる。』
「僕は柳生九兵衛だ。」
『柳生……神崎はどうした。』
「澪は熱を出して寝ている。
悪いが、今日は休ませて欲しい。」
電話をしながら布団をちらりと見る。
しっかりと縄が布団を縛っている。
問題なさそうだ。
『チッ……熱なら仕方ねェな。』
「ああ、すまない。………………っ!?」
待て、縄と布団だけ?
澪はどこにいったんだ。
携帯を持ちながら布団を見に行く。
縄と布団に挟まれていたはずの澪は
いなくなっていた。