第11章 心の余興曲
あの夜の後。彼女はまるで何も無かったかの様にいつも通りだった。安心する声のトーン、優しい笑顔で毎日病院に寄ってくれて部活を出ない日は勉強を教えてくれたり。
ただ1つ、変わったのはテニスの話を俺の前でしなくなった。都大会偵察の報告は綺麗にノートに纏めてあって、それを手渡されただけだった。
「次の日曜日は準決勝と決勝だ。問題無く勝ち進めるだろう」
俺が悩んでる事に気を使ってるのだろうか?それとも弱音を吐いた事に呆れてテニスの話をしなくなったのだろうか?
「幸村?」
「あぁ…ごめん。何の話だっけ?」
「体調が優れないのか?」
「そうゆうのじゃないんだ。少しぼーっとしてて…」
「無理はするな。休んだ方がいい」
そう言って気遣ってくれる部員達が…テニスが出来る部員達が羨ましい。
※※※
「準決勝と決勝はこっち?」
『うん。東京から関東大会に出るのは5校でしょ?上位4校はもう決まってるし5位決定戦は多分氷帝が来るからいっかなーって』
頬杖を付いて携帯の画面に集中しながら言う姫は何かを一生懸命調べてるらしい。何を調べてるんだろうか。
「青春学園、不動峰中、山吹中、銀華中………氷帝学園か。青春学園は先月たまたま迷子になって行ったんすよ」
『へぇーって切原君、ここ3年の教室よ』
「昼休みなんで大丈夫っすよー!柿ノ木中との練習試合の時に」
「それで遅れてたのか」
赤也はものすごーく姫に懐いてる。姫を見かけると飛び付く勢いで駆け寄るし素直で言う事も聞く。姫は姫で遇い方も扱いも上手い。男慣れしてるって言うより子供慣れしてるって感じだな。
『あー、やっぱり携帯で調べるのには限度があるなぁ…パソコン室行こうかな…』
「姫さんはさっきから何を調べとるんじゃ?」
『秘密』
パタン、と携帯を閉じると悪戯っ子の様な笑顔を向けて教室を出ようとする。
「もーすぐ昼休み終わるぞ?」
『そうだね。丸井君も仁王君も切原君も自分の教室に戻りな』
-スタスタ-
「え、まさか姫先輩サボりっすか!?」
「アイツ頭いいからなぁ」
「ちょいちょいサボりに行ってるの見かけるぜよ」
編入試験はオール満点。