第10章 叱咤の対舞曲
でも彼女は…智桜姫は一瞬で見抜いて陰りの無い目で………真っ直ぐな言葉で俺を揺らす。
『はぁ…』
-ダンッ-
「!?」
溜息を吐かれたと思ったら顔のすぐ横に手が伸びて来て…気付いたら視界いっぱいに智桜姫が映る。
『クヨクヨ悩んでんじゃねぇよ、男だろ。テメェそれでもサオとタマ付いてんのか?』
「………え?」
この男前は一体誰だろう。
『ってよく叱咤してた』
「………」
『そうだなぁ…アタシが出来る推測は病気関係の事かな』
「…!」
『更に言うと、そうゆう絶望の色は目の前が真っ暗にならないと出ない。そう…つまりは病気の事が原因で何かが出来なくなってしまった』
「っ!」
『例えば…もう外には出れない、とか…最悪将来が短い、とか………でも…うん、現在の貴方にとっての絶望は…』
すぐ後ろの壁に手を付いたまま俺の顔を覗き込む。
「テニス」
『…うん』
「もうテニスは無理だって話を聞いたんだ」
『そっか…』
「ずっとテニスばかりしてきたから、それが出来なくなるって聞いて深い闇に堕ちたって言うか…」
『それで?』
「え?」
『じゃあ幸村君はテニスを諦めちゃうの?』
「もう無理って…」
キョトンとした表情のまま彼女は言葉を綴る。
『お医者様の言葉だから真に受けちゃうの?諦める前に何かした?何もしないうちから諦めてたらそこで終わり』
「…!」
『アタシと違って幸村君にはまだ可能性がある』
あ…この顔は…
『アタシには足掻く時間も泣く時間も無かった。繋ぎ止める事が出来なかった』
君も闇を抱えてるんだね。
『だからまだ諦めないで』
そんなに悲しそうな顔で笑わないで。
『さて、この話はお終い。都大会偵察の報告は明日するね』
※※※
結構キツい事、言っちゃったかな。お前に何が分かるんだよって思われたかも。そりゃ分かる訳なんて無いし、もしアタシが幸村君の立場だったらそう思ってる。
『でも…』
彼にはまだ時間がある。病気は手術とか投薬、療養すれば治る。だけど。
『一度切れた絆は戻らない』
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