第8章 扉の変奏曲
『何か聞いておきたい事ある?』
まだ時間に余裕があるのか、智桜姫は閉じた教科書をパラパラと捲る。
「とても分かりやすかったから大丈夫だよ。有難う」
『アタシで良ければいつでも』
そう言って人が良さそうな笑みを浮かべる。良さそうって言うか、本当に良い子なんだけど。
「勉強の事じゃないんだけど…少し相談が有るんだけど良いかい?」
『何?』
「こないだもらったトレーニングメニューを参考にさせてもらったんだけど…」
先週から実践している事を柳から受け取ったノートを見ながら説明する。顎に手を添えて相槌を打ちながら親身になって聞いてくれる智桜姫はやっぱり可愛くて何度も盗み見てしまう。
『あー、だから最近皆して疲れたって言ってたのか』
小さく笑いながらノートを覗き込む。
『でも皆ちゃんとこなしてるんだね!流石立海!ポテンシャルが高い』
「そう言ってもらえると有難いよ。それで各々の強化に取り組みたいと思うんだけど………例えば赤也だったらコレとコレの量を増やして…」
『うんうん、いいと思う。あとはこーゆーのをメニューに追加とか』
「凄いな…!詳しいんだね」
『あ…うん、まあ…』
「………?」
『アタシも一時期スポーツしてたし。やっぱスポーツって基礎体力って大事なのよね…持久力、反射神経、瞬発力、握力、腕力、筋力…柔軟とか沢山。何よりスポーツって怪我が付き物だから怪我しない体作りが大事だと思うの。まぁ成長期の身体も酷使し過ぎたら駄目になっちゃうんだけどね』
聞きたい事が沢山あったけど、そう言って悲しそうに笑う智桜姫に何も聞けなかった。
※※※
「え?マネージャー?」
がたっと思いっきり立ち上がった拍子に椅子が後ろに倒れる。
「幸村と俺と柳で話し合った結果、桜音をマネージャーに迎えようと考えている」
「姫先輩がマネージャーかー!俺大賛成っす!」
「何故、智桜姫さんなのですか?」
「二週間前から始めたトレーニングメニューは彼女が考案したものだ」
一同「えっ!?」
全員の声が重なる。
「異論は………無さそうだな」
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