第4章 小指の小曲
『いや…えーと…あの………!』
どうしよう。見ず知らずの人に名前知られてるなんて気持ち悪くて仕方ないよね。やってしまったー!
「…ふふ、立ち話もなんだし場所変えようか?桜音さん」
『!』
※※※
部屋に着くなり彼女…桜音さんは花瓶に綺麗な花を生ける。その姿は凛としていて彼女みたいな人を大和撫子なんて言うのかなって思った。
「とても綺麗な花だね!そのチューリップは…紫?珍しいな」
『紫のチューリップには"王者の風格""気高さ"と言う意味があります』
「!」
『ガーベラには"希望""常に前進"と言う花言葉が』
「………」
『幸村君、貴方にピッタリだと思いませんか?』
ふわり、と笑った彼女は本当に可愛くて。でも何処か凛々しくて。きっと強い女の子なんだろう。
『アタシの親友、テニス部のマネージャーしてて…だから貴方達の事はちょっとだけ知ってるんです。驚かせてしまいましたよね…ごめんなさい』
氷帝のマネージャー…あぁ、あの小さい子か。タイプが正反対そうだけど親友なんだ。
「いや、知っててくれて嬉しいよ」
『お手伝いとかたまにしてたんですけどテニスについては全然詳しくなくて…でも話は良く聞かされてましたから』
「そっか…何か恥ずかしいな」
『お身体、大丈夫なんですか?』
「………うん、今のところは。まだ分からない事が多いから近々精密検査する予定かな」
自分の身体だから分かる。多分あまり良いものでは無いのだろう。
『………』
「あ、そうだ!コート!」
『あ!そうでしたね!』
「本当に有難う。大事に至らなかったのは君のお陰だね」
『何も出来ませんでしたよ』
「そんな事無いよ。部員達が言ってた。君の指示が無かったら自分達じゃどうも出来なかったって」
『だといいんですけど…でも何故』
「ん?」
『あっ…と………』
「君に来てもらう様に仕向けたかって?」
『え!?』
「君とゆっくり話してみたかったんだ」
そう素直に言うとキョトンとした表情を浮かべて照れた様な困った様な笑顔を見せてくれる。
『アタシで良ければいつでも』
→NEXT STORY.