第21章 隔靴搔痒の練習曲
合宿二日目の夜はとっても賑わった。皆で河原でバーベキューして西瓜食べて。サプライズでケーキ作ってくれてたり花火用意してくれてたり。こんなに楽しかった夏はきっと初めて。
-サアァァァ…-
風で揺れる木の葉の音に耳を傾けながらペンションのベランダで空を見上げる。住んでる町と違ってとても空気が澄んでるから数多の星の煌めきが肉眼で確認出来る。プラネタリウムってきっとこんな感じなのかな。
-ふわ-
『!』
と香る甘い匂いと、ふわりと肩にかけられるカーディガン。コトリとベランダの手摺に置かれたマグカップの中には暖かいココア。甘い匂いの正体はコレか、と隣に現れた影を見る。
「夜風は冷えるよ」
『有難う』
「綺麗な星空だね」
『うん』
わざわざ飲み物と羽織るものを用意してくれたって事はアタシが此処に居た事を知ってたのだろうか。
「皆は今リビングでトランプしてるよ」
『幸村君はしないの?』
「俺はこうして静かに空を眺めてる方が好きかな」
『そっか』
隣に居る幸村君との距離は十数センチ。その距離が酷くもどかしくてマグカップに口を付ける。
『…美味しい』
「良かった」
※※※
ベランダで空を見上げる智桜姫を見かけたのはお風呂から上がって部屋に戻る時だった。同じくお風呂上がりなのかショートパンツにタンクトップ、首にタオルをかけて首が痛くなるんじゃないかってくらいずっと空を見上げてて。その背中が少し寂しそうに見えたからリビングでトランプをやろうと言う皆の誘いを断って一緒に空を見上げる。
「後悔、してない?」
『何を?』
「んー…マネージャーやってる事」
当時は智桜姫の事情も知らなかったから結構強引な口説き文句で引き摺り混んでしまったし。でも多少なりとも事情を知ってしまったから、ちょっと心配って言うか。
『ぶっちゃけちゃうと始めは面倒だったかな。でも今はとっても楽しいし充実してる』
涼しい夜風が智桜姫のサラサラの髪の毛を弄ぶ。
『皆すっごく個性的だし』
「個性的…」
『仲間って素敵だなって思ってる。だから…』
「?」
『アタシを誘ってくれて有難う。マネージャーにしてくれて有難う。今でも充分、素敵な景色を見させてもらってる』