第5章 合宿
「こらぁ!ラスト一本に何本かかってんだ!」
と繋心の声が聞こえてきて、私はクスクス笑ってしまった。前はあれほどコーチを嫌がっていたくせに、もう完全に熱血指導をしていたころの繋心に戻っている。
私はみんなの練習を見学している。マネの清子ちゃんを手伝おうと思ったのだけれど、私が来た頃にはもう全てマネージャーがするような仕事は終わっていたし、ボール出しも今のところ清子ちゃん一人で十分なのだ。
清子ちゃんはとっても器用だ。部活が滞りなく進むように常に気を配っている。
よって私の仕事は一つもない。なんとなく寂しかったが、私はバレーを教えるほど上手くもないし、できることは救護なのでしょうがない。
しばらくして休憩時間になると、一年生の日向君に声をかけられた。
「お、お姉さんって!坂の下商店のひとですよねっ?」
少し緊張しながら話しかけてくれるのがかわいい。
「そうだよ。今日から合宿の付き添い看護師、うーん言わば保健の先生みたいな役でご一緒させてもらうからよろしくね」
日向君は私の返事で一気に表情が明るくなる。どうして私がここにいるのかわからなくてモヤモヤしていたんだろうな。悩みがスッキリした顔だ。
なんだろう、この頃の私ってこんなに純粋だったっけ?
「榎本さーん、こんにちは。今日からよろしくお願いします」
菅原君がスポーツドリンクを片手にこちらにやって来た。
「日向、めちゃくちゃ汗かいたんだから、水分補給しろよー。熱中症になるべ」
「はい!スガさん」
日向君はそれじゃあ、と頭を下げて去っていく。
「菅原君、今日からよろしくお願いします。」
「いえいえ、俺こそお世話になります。」
なんだろう、菅原君とは店員とお客さんの関係が長いから敬語が出てしまう。こんなんじゃ親しみにくいかな…。
私は敬語なし、敬語なし、と心のなかで呟いてみた。