第5章 合宿
「いいやつなんですけど、熱いから暴走気味のやつが何人かいるんで榎本さんも戸惑うかもしれませんが、悪気はないので許してください」
「大丈夫ですよ。えっと、私が高校生の頃を思い出せて楽しいし、いい人そうなのはお店で見ててもわかるから…」
菅原君への言葉遣いをちょっとずつ変えていこうという心のなかで決行を開始した作戦はなんとか進み始めた。
なんだか敬語使ってるのか使ってないのかよくわからない言葉遣いだけど、ここから順調に進めたいな。
「榎本さんみたいに優しい人が来てくださって嬉しいしです」
菅原君はあの笑顔を見せてペコリと頭を下げた後、その場から立ち去った。
うーん、あの笑顔は毎回思うけどずるい。彼の笑顔を見てると、本当に純粋に恋していた初恋の頃のときめきが戻ってきた感覚になる。
こんなに甘酸っぱくて、ちょっとした彼の仕草でにやけてしまいそうになるのはいつぶりだろう。少しひんやりとした体育館の壁に背をもたせかけながら私は考えた。壁から伝わってくる冷たさは気持ちよくて、先程の会話で一気に体温が上がった私をなだめてくれているような気がした。
練習のあとは合宿所に直行した。私や繋心には懐かしい場所で、ふと高校時代の事が頭でよみがえった。
初めての合宿らしい日向君が合宿所のあちこちを興奮気味に走り回っているのを見て、くすりと笑ってしまった。こんな弟が欲しかったなぁなんて考えてしまうのは失礼だろうか
何やら西谷君と田中君が騒いでいて
「潔子さんの周囲500mはオアシス!」
と月島君につっかかっているので、何か月島君が皮肉めいたことを言ったのだろう。彼は本当に大人びていて、高校生なのか疑いたくなる。
そのとき遅れて入ってきた菅原君が私の横を通って田中くん達のもとへと行く。
「清水は家近いから、用が済んだら帰るよ」
と容赦なくいい放った菅原君を見て、何だか新たな一面を見た気がする。伸びてしまった二人が早めにマネの仕事を終えて合宿所に来ていた清子ちゃんを見て瞬く間に蘇生する。
「忙しいやつらですよね」
苦笑しながら私に話しかけてくれた菅原君と共に、しばらく田中君と西谷君の行動を見て楽しんだ。