第4章 春の訪れ
あの日からしばらく菅原君は坂ノ下商店に現れなかった。どうやら部活が本当に忙しいらしい。
私が坂ノ下商店から家に帰るときに、一度菅原君を見かけた。あまりにも疲れている様子なので、声はかけなかったが試合後のようだった。
試合後はレギュラーでも、ベンチでもマネージャーでもみんな緊張の糸が切れてどっと疲れが出る。普段の部活とは全く違う疲れ方をするので、何となく菅原君の表情を見てわかった。
それにしても最近、繋心がどうもそわそわしている。
何があったのか聞きたいが、よほど深刻なら本人から言ってくる気もするので深入りするのはやめておこう。
私は商品を棚に入れながらそう考えていると、スーツ姿の私達と同年代ぐらいの人が入ってきた。
サラリーマンかな?珍しいと思っていると、彼は商品を持たずにまっすぐ繋心のいるレジに向かう。
「この前お電話させていただきました、武田です。鵜養さん、この前のお話、もう一度考え直してはいただけませんか?お願いします」
「また、あんたか。何回言われてもコーチなんてやらねーよ」
繋心は鋭い視線でスーツ姿の彼に言い放つ。なかなかに機嫌が悪そうだ。いつも以上にトーンが怖い。
「わかりました。でも、みんな本当にバレーが好きで、全国を一心に目指しているんです。今日はそれだけでもわかっていただけたらと思ってうかがいました。今日は帰ります。何度言われても諦めませんから。」
そう言ってスーツ姿の彼は坂ノ下商店を去って行った。