第4章 春の訪れ
「あれっ、榎本さん?」
私が懐かしい思いに浸りながらブランコに座っていると、聞き覚えのある声がする。
「あ、菅原君。こんにちは。」
私がそう挨拶すると菅原君は近寄ってくる。てっきり「早く帰った方がいいですよー」と言って立ち去るのかと思っていたので仰天する。
「何してるんですか?」
「昔このブランコによく座ってたなー。って思い出したら懐かしくなって座ってたんです。」
「昔って小学校とかですか?」
「いや、高校。」
なんだかいい年して何やってたんだろうと思えてきて少し恥ずかしくなる。思わず話しながら下を向いて肩をすぼめた。
するとはははっ。と笑い声がした。思わず見上げると菅原君が笑っている。子供っぽいと思われたのかもしれない、と話したことを後悔していると、
「なんか想像したら可愛く思えました。」
と恥ずかしさなど毛ほども無い様子でそう言われた。
「かっ、可愛いってどこが⁉」
「んー、何て言うか榎本さんって大人っぽいイメージあったんですけど、俺らみたいに子供の頃があったんだなーって。あ、昔の頃がちょっと想像できて嬉しかったと言うか何て言うかそのっ…」
菅原君は上手く言葉にできないようで焦っているようだった。なんだかその姿は可愛らしい。
多分年寄りくさいって訳ではなく、自分と親近感を持てたということなんだろう。それなら嬉しいな。
「菅原君が何言いたいかは何となくわかりました。ありがとうございます」
私がそう笑って返すと、
「あの、隣座っても良いですか?」
と菅原君が遠慮がちに尋ねてきた。