第4章 春の訪れ
「今日菅原君眠そうですね。」
菅原君は学校帰りに一人でお店にやって来て、眠気スッキリ!というのが謳い文句のガムやら飴を2、3個買った。
「え、榎本さんから見てもわかりやすいですか?」
「うん、なんか目がちょっと眠そうに見えるよ。」
少し瞼が下がりぎみだ。その時菅原君が大きな欠伸をする。なんだかいつもより幼く見えて可愛かった。
「…、すみません。今日四時起きだったんで。」
欠伸をしたときに出た涙を拭いながら、少し照れたように話す菅原君。ああ、可愛い!なんて叫びたくなるけれどグッと我慢する。それにしても…
「よ、四時ってずいぶんと早起きですね。勉強ですか?」
私でも六時起きだよ。部活してると言えど早すぎな気がする。
「いや、1年生の自主練に付き合ってたんです。」
「へぇ、熱心な1年生ですね。」
でもそんな早起きに付き合ってあげる菅原君も面倒見がいいんだな、と彼のまた良いところを見つけて嬉しくなった。
「これにはちょっとわけがあるんですよ。」
と菅原君がイタズラっぽい顔になる。
そして彼がことの顛末を語ってくれたお陰で、昨日澤村君が落ち込んでいたのもようやく理解できた。
それにしても、教頭先生のかつらを飛ばした話は笑ってしまった。菅原君は誰にも内緒ですよ。なんて念押ししていたけれど、もし同窓会とか何かで偶然会ってしまったらどうしようか。
「あ、ごめんなさい。こんなに話してしまって。」
菅原君が時計を見て慌てる。レジの前でゆうに30分は話し込んでいたからだ。
「大丈夫ですよ。ここ、この時間帯は全然お客さん来ないんで。」
と繋心が聞けば起こりそうだが私はそう言って笑う。
「それこそ私こそごめんなさい。菅原君は明日も朝早いんでしょう?」
気をつけて帰ってくださいね。と菅原君を見送ったあと、私は今までになく長い間話せたことに小躍りしそうになったのだった。