第3章 向き合う心
「いらっしゃい、菅原君。」
「こんにちは。麻婆肉まんありますか?」
「はい。いつものようにとってますよ。」
私は思わず満面の笑みで答えた。ああ、菅原君に会えるのが嬉しいからってにやけるなんて。
「では180円になります。」
「はい。」
いつものやりとり。でもこれで今年は最後だ。
ああ、菅原君との繋がりが消えちゃうなぁ。でも所詮こんなにも年の離れた、店員じゃあしょうがないよね。今までのように、諦めている恋だが、いつまでもなれない胸の痛みがおこる。
「榎本さん、俺たち来週には3年生ですよ。」
「そうですね。」
こんなふうに歳を重ねることを嬉しそうに話していたのはいつまでだっただろう、と昔のことを思い返しながらそう答えた。
「菅原君も最上級生になって大変だと思うけど、バレー頑張ってね。」
学年がかわると部活にも新しい風が吹くような、そんなあわただしくも心が浮き立っていたことを私は思い出す。
「バレー部ってご存じだったんですか?」
少し菅原君は驚いた顔をしたけれど、ああこれか。とジャージを見た。
烏野高校排球部
懐かしい字だ。私もこれを着ていたことがあったな。ふいにもう一度着てみたくなったが、歳に合わないので考えを打ち消す。
「私も烏野バレー部のマネージャーしてたんです。懐かしいなぁ。」
と私が言うと、「え、マジですか?」と顔を輝かせる菅原君。
「うん、あの頃が一番楽しかったなぁ。菅原君も最後の高校生活楽しんでね。」
「はい。」
そうして菅原君を見送ってから、やっぱり年上臭いことを言ってしまった!と後悔するのはお約束である。