第3章 向き合う心
「菅原君、来週で激辛麻婆肉まん最後になるんだ。ごめんね?」
「えっ、そうなんですか⁉」
私が肉まんを渡しながらそう告げると案の定彼はショックを受けたようだった。
私は最後の日に言われるのも驚くだろうと思い、事前に知らせることにした。
「うん。ごめんね?期間限定だったから…。でも割りと他の学生とかも買っていったから来年もしようってことにはなったんだけど」
どちらかと言うと菅原君のように麻婆好きというよりは面白そうだと買ってみた客が多かったのだが、割りと好評だった。
「それは良かったです。来年の楽しみができました。」
「あはは、来年の楽しみってずいぶん先ですね。」
純粋に来年を楽しみにしている菅原君がかわいい。
この3ヶ月ぐらいで随分と菅原君とは言葉を交わすようになった。恋人になろうとかそういうわけじゃないから、ただこれだけでいい。
私にはこの毎日が好きなだけで、これ以上進む気はなかった。
「それにしても榎本さんには随分お世話になりました。俺のためにありがとうございます。」
菅原君は頭を下げる。
「いや、別に大したことは…。ただ取り置きしておくだけだから気にしないで。」
私がそう慌てて言うと、菅原君は少し不満げな顔をみせる。
「榎本さんは遠慮しすぎです。こういうときはどういたしまして、で十分だべ。」
菅原君に言われたことに私はドキッとした。私が自信が無さげに見えると以前働いていたところの上司に言われたからだ。
でもその時のとがめるような口調ではなく、彼特有の優しい口調で言われると、
「そうですね」
と私も笑うことができた。