第3章 向き合う心
俺は店を出た後、思わず心の中で叫んだ。
榎本さんが部のOBだったことが判明して、これから喋る名目が一つ増えたからだ。
結局彼女に思いがけず恋をしてしまった俺は(まあ、恋なんて意識的には出来ないと思うが)、やれることはやってみることにした。
まずは店で肉まんを買う時、何気なく会話を挟む。そしてその会話を少しずつ増やしたり、商品以外の話をしてみる。
これで少しでも榎本さんと自然と話せるようになれば、と思っていたのだが想像以上に効果はあったようで、彼女も嫌な顔せずに俺のちょっとした話を聞いてくれた。
彼女は素敵な人だし、俺を見たってただの高校生だろう。恋愛対象に高校生を入れてもらえるなんてなかなか無い話だ。
クラスの女子の会話を耳に挟んでも、年上の彼が車に乗せてくれたとか、素敵なディナーをご馳走してくれたとか。やっぱり頼りになる男の方が好きなようだ。
俺はそんな男に比べたらガキだし、金も無いし、人生で経験してきたことも断然負けてる
立派な男と張り合う気はさらさら無いが、自分が本来持っているもので榎本さんにアプローチするしか無いのだ。
例えば会話とか…。
「道のりは長そうだな…」
まだ夜になると辺りは真っ暗だし、寒い。俺の息は周りを少し白で染めた。
俺は次に榎本さんに会ったとき、どんな話をしようとあれこれ考えながら家路についた。