第3章 向き合う心
「榎本さんこんにちは」
水曜日。あんなに慌てて店を出た時とは大違いで、菅原君は落ち着いた雰囲気だ。
あんなに謝られたらむしろ私の方が申し訳ない気分になっていたので、彼と次に会うときにどういう顔をすればいいのかと悩んでいたが、いつも通りの彼にほっとした。
「いつものですか?」
「はい。あと榎本さんのおすすめの飲み物って何ですか?」
あったかいのがいいな~。といいながら飲み物のブースを眺める菅原君に、
「はちみつレモンとか喉にも優しそうだし、体も暖まりますよ。」
私が冬に飲みたくなる飲み物。めちゃくちゃ自分の好みで選んでしまっているが、コーヒーや紅茶は砂糖やミルクがないと飲めないタイプの人もいるし、安易に選べない。もちろん私もそのタイプの一人だ。
「じゃあそれにします。」
「合計で300円です。」
「はい。」
500円玉を渡されて、お釣りを返す。いつもこのときは彼の手に触れてしまわないかドキドキしてしまう。
そして菅原君は買ったものを受け取ってから、その場で袋からはちみつレモンを取り出す。
どうかしたんだろうか?私が不思議に思っていたら
「はい、これ。お仕事お疲れ様です。」
と菅原君が私にそのままそれを手渡した。
「ええっ、悪いですよ。」
「いつものお礼です。まだまだ寒いので体調に気を付けてください。」
それじゃあ、と去っていった菅原君を見ながら
彼に他意はない他意はない他意はない、と呪詛のように思わず頭の中で牽制した。
なんなんだろう、年下の癖に私振り回されまくってるなぁ。
後ではちみつレモンを飲んだが、甘酸っぱい味が口に広がる。
「なんなのよ、もう…」
年齢はもう25にさしかかっている癖に、少女のような恋愛体質はなかなか抜けてくれない。