第2章 あなたの名前を教えて
「こんにちはー」
水曜日。今日も彼が店にやって来た。
「こんにちは。肉まんですよね?」
「はい。」
そう言って満面の笑みの彼を見て、とても幸せになる。ああ、恋とは偉大だ。
「お会計は180円です」
といつものやり取りをして、これで終わりかと思えば、
「榎本さんってあのお兄さんの恋人なんですか?」
「えっ」
どういうことかわからないが菅原君に衝撃的な発言をされる。
「いやいやいやいや!彼はただの幼馴染みですよ!別にそんな関係じゃ…!」
彼はいい人なのは知っている。でも、お互い長い間一緒にいたからか、そんな感情は一切芽生えたことがなかった。
むしろ、私が勝手に片想いして、告白もしないまま相手に恋人ができて泣くのを毎回慰めてくれる役回りなのである。
「そうなんですか。部活のみんなと坂ノ下商店は親戚の人が営業することが多いからもしかしてと言ってたんです。すみません」
「いえいえ、別に…。そう思われても仕方ないですよね。」
確かに繋心との仲はたびたび誤解されたことがあったのも事実だ。
そんなことを考えながら、彼と話せたという嬉しい気持ちはどんどんしぼんでいく。
恋の話をしてもらえたなら、それなりに私に恋愛対象でなくとも興味をもってもらえたと思ったのだが、どうやら彼というよりも、彼のチームメートが興味津々のようである。
彼と話しているのに、話してないような気分だ。