第2章 あなたの名前を教えて
一瞬彼はえ?と驚いたような顔をしたが、
「ああ、そういえば俺だけ一方的に榎本さんの名前知ってるんですよね。確かに不公平かも。」
と笑う。
ああ…。ちょっと唐突すぎて引かれたかな。彼に変な人のレッテルを貼られたら嫌だ。私は少し冷や汗をかいた。
「俺は菅原孝支って言います!みんなはスガと呼んでくれますが、お好きなように呼んでください」
あのとびきりの笑顔を見せた彼は、いつも以上に輝いて見える。
「あー!スガさんだけお姉さんに自己紹介してずるいっすよ!俺は田中龍之介です!以後お見知りおきを。」
こ、これは少しかっこよくきめたかったのかな?
「こら田中やめろ。榎本さんが困ってるって」
私の心を察してくれた菅原君が田中君に注意をする。
「えっと、菅原君と田中君よろしくね。」
そのあとなんだなんだと近づいてきた西谷君や、澤村君、東峰君他の部員達も流れで自己紹介されて、少し混乱しそうになった。
でもこれだけわちゃわちゃしていたら菅原君もあの不自然な問いを忘れてくれているかも、とポジティブに考えておくことにする。
「なんだ、やつらと仲良くなったのか?」
店の奥に引っ込んでいた繋心が顔を覗かせた。
「うん、まぁね。多分店に来たついでに少し話してもらえる程度、だけど」
だって高校生といい歳した大人が接する機会なんて滅多にないのだから。
せめてこの時間だけでも大切にしよう。
菅原孝支君、かあ。頭の中で今日教えてもらった名前を繰り返すと自然と笑みがこぼれた。
今日は今まで恋愛に臆病だった私が少し成長した日だ。後でご褒美にケーキでも買おうかな、なんて私はほんのちょっとしたことなのにこんなにも浮かれてしまうのだった。