第2章 あなたの名前を教えて
「こんにちわー」
今日も彼がやって来た。もう何回か取り置きの肉まんを渡したり、バレー部の面々とやって来て少し坂ノ下で駄弁っている姿に少し見馴れてきた今日この頃。
私はあることが気になっていた。それは、゛彼の名前がいったいなんなのか゛だ。
みんなにスガ、とスガさんと呼ばれているのはここ最近わかった。しかし、それが菅田さんか須賀さんなのか、菅谷さんなのか菅原さんなのか。さっぱりわからないのだ。
「これください!」
髪の毛を逆立てた小柄な男の子がレジに置いたものを見て目を疑う。
…ガリ○リ君ソーダ味…?こんな2月に寒くはないのだろうか。
しかしそんなことを客にいうわけにもいかず、会計をする。
買ってすぐに食べていたが「冷たい!」と予想通りの反応を示しており、クスリと笑ってしまう。
「あの、激辛麻婆肉まんありますか?」
スガ君(?)が私に話しかけてきた。
今日は水曜日ではないが、食べたい気分なのだろう。
「はい、ありますよ。」
私は肉まんを取り出しながら、あなたの名前を教えてください、あなたの名前を教えてください、と予行演習のように頭の中で繰り返す
いやいや!私は単に彼のよく来る店の店員!名前を聞くなんて…。と途中でちっぽけな勇気はへにゃりと潰れてしまった。
「180円です。」
せめて笑顔で!と思って自分の精一杯の笑顔を見せて対応する。
「榎本さん、いつも俺のわがままを聞いて下さってありがとうございます。」
彼が私の心をかき乱すあの笑顔を見せる。名前を呼ばれたのもあいまって、頬がじわじわと熱をもつのがわかった。
何で名前をと聞こうとしたが、そういえば店の名札を貼っているので彼も知っていたのだろう。
「い、いえそんな…。そういえばあのっ…あなたの名前を教えてくれませんか?」
さっきまで頭の中で繰り返していたからか、言おうか躊躇している隙にポロリと口から飛び出した。