第3章 新しい日常
この感情の名前は、分かっている。
分かっているけれど、それを伝えるべきか・・・
もしも上手く行かなければ、彼女とのあの時間は消えて無くなっていくのだろうか、
それが怖かった。
(まぁいつも、話しを聞いてくれるし、嫌われては、居ないはず)
彼氏も、いないと言っていたことを信じれば、自分が好意を伝えて、自分を意識してくれる様になってくれればいいかも・・・と心の中の整理がついてき始めた頃、
及川は意を決して、今日も自分の向かい側の席に座るリオに口を開いた。
「あのさ、リオ・・・」
今日も自分たち以外無人の車両内で、及川の声はよく通った。
「ん〜?」
自身の髪の毛についた糸くずを取り除いていたリオは、首を傾げて及川を向いた。
「提案なんだけどさ・・・」
「うん」
どきどきと鼓動が速くなる。
緊張を振り払うように残りの缶コーヒーの中身を飲み干すと、及川は再び口を開いた。
「今度、一緒にドライブ行こうよ」
「ドライブ?」
と聞き返すリオに及川は頷き返す。
「俺、免許持っててさ、両親の車、たまに運転させてもらってんの。リオの家まで車で迎えいくし、どう?」
初めての、デートの誘い。
いつも電車の中でしか知らないリオの、外での姿を見てみたいと思ったから・・・・・・
「うーん・・・」
と少し視線を上の方にずらし、リオは考えている。
(頼む・・・・・・)
イエスと言ってほしい。
この時間が、たった10数秒の間がやけに長く感じた。
「ん、分かった、いいよ」
「まじで!?」
思わず叫ぶような大きな声が出てしまった。
そんな及川に、リオは微かに目を見開いた。
「でーも」
と、リオは喜ぶ及川の視線を再びこちらに向けさせた。
「ドライブ中、私に、一切触んないでね?」
「え?」
リオの予期せぬ発言に、今度は及川が目を丸くする。