第3章 新しい日常
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それからも及川の日常はほとんど変わらなかった。
ただ変わった事は、終電に乗る時にリオと他愛ない話をするようになったこと・・
その変わった事が、"日常"へと変わり始めた事だったかもしれない。
リオとの再会を経て、
彼女に会えるのは大体終電だとわかると、
及川は終電になる事が楽しみになっている自分がいることに気づいた。
ただ意図的に自主練を長くしたり、終電まで部室で屯する事は無い。
あくまで偶然的に、自然に、
そんな風に彼女と会いたかったから・・・
リオと話す時は、まるでカフェに一緒に入った時のように、お互い向かい合わせに座り、缶コーヒーを手で包んで、少し前のめりに体を傾けて話す。
その方がお互いの目線が合いやすいし、相槌も見て感じられる。
リオと話す短い電車の中で、及川は回数を重ねる度に少しずつ彼女の事を知っていった。
二回目に会ったときに聞いた、妹がいること
その妹は、自分と同じセッターをやっていること
リオはよくその応援に行っていること
バレーは観る専門であること
好きなことは歌うことで、
ストリートライブをしていること、
夢は歌手になるということ、
そのために今はフリーターをしていること
そんなことを、リオはとても楽しそうに話してくれた。
逆に、及川の話を聞く時はまた、聞き上手になる。
自分より一つ年下の彼女に、及川は完全に心を開いていた。
だから、ついつい話し過ぎて、時間はあっという間に感じてしまうほど・・・
その小さく心地よい時間を回数を重ねて過ごしていく度に、及川の中ではある感情が芽生え始めていた・・・・・・