第18章 最期の時間
「懐かしい・・・」
ふいに背後から、リオの声が聞こえた。
振り返ると、リオは目をきらきらと輝かせて及川の脇を通り過ぎ、誘われるようにステージのマイクスタンドの方へと歩いていく。
「ここ、大好きな場所だった・・・」
ステージに上がり、愛おしそうにマイクスタンドに触れ、なぞる。
「この上からはね、お客さんの顔、一人一人全部見られたの」
手を広げ、こちらを振り向く。
「私の歌を聴いて、体を揺らしてリズムにのってくれたり・・・携帯ばかりいじっていた人が手を止めて私の顔を見て、それからずっと聴き続けてくれたり・・・ほんと、色んな思い出がここにあった」
自分がありのままでいられた場所、
夢を、追い続けた大好きな場所・・・
「ここに、リオがいる気がして・・・徹くんを連れてきたかったの」
ミオは、マイクスタンドへ歩み寄る。
「ミオ・・・」
「リオの姿は見えない・・・けど、感じる。ここで、リオが歌いたそうな顔してる、気がする・・・」
何故か、泣けてくる。どうしてだろう・・・
涙を零しながら、ミオはマイクスタンドを見上げた。
「もしもいるなら・・・もう一度、歌ってくれないかな、リオ・・・」
あの頃のように、
いつも背中を押してくれたあの笑顔で、声で・・・
私を包んでほしい・・・
話しかけるミオに、リオはこくんと頷いた。
「きっと・・・ミオには届かないかもしれないけど・・・」
リオはミオを見つめた。
大切な、大切な妹・・・
自分の片割れ・・・
すると、及川もミオの側へ歩み寄り、彼女の手を握った。