第18章 最期の時間
明くる日、及川の指定した待ち合わせ場所に、もうミオの姿はあった。
秋物の、黒のレースのワンピースに薄手のボルドーカラーのカーディガンを羽織ったミオは、自分が来るのをそわそわしながら待っている。
(待ってめっちゃ可愛い)
遠くから見てもわかる。
彼女が今どんな顔をしているのか。
きっと、長いまつげを伏せて、少しあの瞳を細めて・・・
自分が来たらぱっと顔を上げて、綺麗な笑顔を見せてくれるんだろうな・・・
でもそんなに可愛くしてたら・・・
変な虫がつきそうだ。
及川は足早に彼女の元へ行き、そして後ろからそっとその目を手で隠した。
「だーれだ?」
「ひゃっ!・・・と、徹くん、ですか!?」
肩をびくりと震わせて、見えない視界の中、声だけを頼りに恐る恐る口を開くミオ。
手のひらに、微かに睫毛が当たる感触がする。
「ぶぶーっ・・・正解は」
及川は手を退け、ミオの前に立った。
「ミオの大好きな、徹くんでした〜♪」
ミオは目を見開いて、そして顔を真っ赤にして悪戯っぽく笑う及川の胸板を叩いた。
「もうっ、おはようございますっ」
そう言う彼女の顔は、照れくさそうな笑顔だった。
及川も、珍しく少年のような笑顔を彼女に向けた。
「よく眠れた?」
「はい、でも、何着ていこうかなとか色々悩んじゃいました」
「いつもオフの日一緒にいるのに、何言ってんの」
「徹くんがデートって改めて言うからですよ」
そんな他愛のない話をしながら歩き出す。
すると、及川は
「ミオ」
ミオに手を差し伸べた。
「え?」
目を点にして、差し伸べられた大きな手を見る。
「・・・繋いでくんないの?」
目線を上げれば、少し照れくさそうに、口を尖らす及川の顔。
ミオは差し伸べられた手の意味を悟り、そしてクスッと笑った。
「なんで笑うのっ」
「や、だって・・・」
自分の反応を待つ及川が、何だか可愛く見えた。
ミオはそんな及川の手に、自分の手を重ねた。
温もりが手から全身へ伝わっていく。
及川は満足そうに、繋がられた手に力を込めた。
「じゃあ、行こうか」