第8章 その肆〈信長ルート/艶有〉
信長の言葉に、秀吉が苦渋の表情を浮かべながら唇を噛み、それ以上言い返せずにいると、が静かに口を開いた。
「秀吉さん、ちょっと降ろして貰えるかな?」
「……?」
「少し、信長様と二人で話がしたいの」
「なっ……それは……!」
「お願い、秀吉さん。……信長様、良いですか?」
今この場にを残したら、また信長に何をされるか分からない。
気が気じゃない秀吉の心配をよそに、はその温かな腕の中から降りて、信長を真っ直ぐに見つめる。
には気になる事があったのだ。
自分の気のせいかもしれない。
ただの杞憂かも……
そう思うが、冷たい信長の瞳にほんの一瞬、哀しげな色を見た気がして、それが何故か、無性に気になった。
の申し出に、信長は口角を上げて微笑を浮かべながら「……何を話すつもりか知らんが、いいだろう」と答える。
「。それなら、せめて俺も……」
「ううん、秀吉さんは仕事に戻って。私なら、大丈夫だから」
「……っ」
「秀吉、何も取って食ったりはせん。貴様は仕事に戻れ。……話が終わり次第、俺もすぐに戻る」
「………御意」
渋々そう返事をして、胸いっぱいに広がる嫌な予感に苛まれつつ、秀吉は天主から出て行った。
もう二度と、愛しいに触れられない……
そんな哀しい予感を、胸に抱いて。