第7章 その漆〈秀吉ルート/艶有〉
部屋でぼんやりと考え事をしていたが、バタバタと近付いてくる足音に気付き、襖の方へ視線を向ける。
すると、襖が勢いよく開かれた。少しだけ息を切らせている秀吉に、は驚いて瞳を見開く。
「秀吉さん?」
「……っ!」
名を呼ぶなり、秀吉はをぎゅっと抱き締めた。その焦ったような表情に、は首を傾げつつ、そっと抱き締め返す。
「……秀吉さん、何かあったの?」
「の方こそ……」
「え?」
「三成から聞いた。……信長様に呼び出されたんだろ?」
「!」
「……何の用事だったんだ?それに……」
――何もされなかったか?
そう訊きたいのに、言葉が喉に詰まる。その言葉を口にしてしまったら、信長への己の忠義に背いてしまうような気がして……
主君である信長自身を、裏切ってしまったような気がして、自分自身が怖かった。
……だが、そんな秀吉の不安は、の一言によって、すぐに消えてしまう事になる。
秀吉の温かく硬い胸板に顔を埋めながら、が信長からの言伝を伝えた。