第7章 その漆〈秀吉ルート/艶有〉
書庫の外で礼を言う三成。
書庫の中では、家康が両手で耳を塞いでいる。そして、苦々しい表情でボソリと呟いた。
「秀吉さん、この貸しは高くつきますからね……」
散々な状態の書庫内を見回して、額に手を当てながら、家康は深く溜め息をついた。
………………
………
一方その頃、秀吉は――……
家康と三成の事など露知らず、自分の御殿へと早足で向かっていた。
己の主君である信長の事は、勿論信じている。信じているが……
信長は最初から、を気に入っていた。しかも、無理矢理夜伽をさせる事だって出来たのに、ずっと一線を越える事なく、を可愛がってきたのだ。
(やはり信長様は、本当にの事を……)
しかし、それが真実であったとしても、だけは譲れない。
信長に不本意な熱を与えられていた、少し前までのの事を思い出すと、秀吉の中で沸々と熱く煮えたぎるような何かが渦巻いていく。
(もう、あんな気持ちになるのは御免だ。やっと手に入れたんだ。やっと……)
拳をぐっと強く握り締めながら、自らの御殿へと足を踏み入れる。そして、わき目も振らずに、の元へと急いだ。