第7章 その漆〈秀吉ルート/艶有〉
「お前の身体には感覚がないの?俺にはお前が体当たりして本を崩してたように見えたけど?」
「感覚ならちゃんとありますが……私の身を案じて下さるなんて、家康様は本当にお優しいお方なのですね!」
「……もういい、少し黙ってろ」
「ああ、埃っぽいですからね!流石、家康様です。では、私が何か口に当てられる手拭いを取って参りま……わわっ!」
三成は再び足をとられて、ドシャッと本の海にダイブした。
すると、家康は肩をワナワナと震わせながら立ち上り、三成の後ろ襟を掴んで、そのまま書庫の扉を開け、廊下へと放り投げた。
「うわっ!い、家康様?」
「……後は俺がやっておくから、お前はさっさと仕事に戻りなよ。……もしくは御殿へ帰れっ!」
「家康様、私の仕事の心配まで……!ありがとうございます!ですが、流石にあの量を家康様お一人で片付けるのは……」
「お前が居るよりはマシだっ。今日一日、絶対に書庫へ近付くなよ!」
―――バタンッ!!
そうして書庫の扉は、内側から固く閉ざされた。
家康からの完全なる拒絶。しかし、いつもの如く、三成には何も通じない。
書庫から締め出された三成は、目をぱちくりさせ、しばし思考を巡らせて、家康への尊敬の念を益々深くさせる。