第5章 理性
部活へ急ぐ芥川くんを見送り一人きりになった部屋を見渡し、クッションを抱きしめた。
あぁ・・・やってしまった。大人なのに、理性はもう止められなくて、欲には勝てなくて・・・。ううん、全然大人じゃない。
眼鏡を拾い上げて掛ける。
大人になりたくて、教師になってから掛け始めたシルバーフレームの伊達眼鏡。素顔の私は、子どもの頃に夢見た“大人”とは程遠い。童顔と言われ、居酒屋に行けば年齢確認されることもあった。
それから素顔を隠すように掛け始めたこの眼鏡は今や相棒。でも、見た目は偽れても、こうして生徒にされるがまま、受け入れちゃうなんて・・・期待しちゃうなんて、ダメな大人・・・。
罪悪感に苛まれながら、窓から外を見ると、ここからは丁度テニスコートが見える。
太陽の光をいっぱいに浴びてキラキラと輝く芥川くんの髪色はここからでもわかるほど。もう後には引けないよ・・・不意にこちらを向いた彼と目があった気がして、咄嗟に身を隠したけど、さっきからずっと鼓動が鳴り止まない。
この気持ちが何なのかわからないのは、私がまだ子どもだからなのかな・・・?