第3章 心が揺れる時
声がした方に顔を向けると、そこには翔太君が居た。
翔太君はこの前届け物をした、神田さんとこのお孫さん。そして、何故だか私に良く突っ掛かってくるため、少々苦手としていた。
翔太君は自転車から降り、ずんずんと近付いて来たかと思うと、十四松を私から引き剥がした。
「おい、てめぇ。何してんだよ」
明らかに十四松に対し敵意が剥き出しなのが伝わってくる。
……あぁ、そう言えば今の十四松は人間に化けてるから、普通の人にも見えるんだっけ…と呑気な事を考えるのを止め、2人の間に入った。
『まぁまぁ』
何かに怯えたように立ちつくす、十四松に声をかける。
すると開いたままだった口が静かに動いた。
「…あ、僕……廉ちゃんに……ごめん!!僕、廉ちゃんが嫌がってたのに……」
十四松の焦り具合に、私は少し驚く。
「本当に、ごめんなさい!!」
十四松は私に深く頭を下げた。妖に謝られたのは初めてだ。私は戸惑いながらも、この場を収めるため十四松に笑い掛ける。
変に騒いで、村中の噂になるのは避けたい。
『大丈夫、気にしてないから』
「ほ、ほんとに!!?ありがとう!!!」
十四松はバッと顔を上げ、途端に私に向かって抱き着いてきた。
『っ…』
「っだからくっつくな!!」
しかし、直ぐに翔太君によって引き剥がされる。
「…それに、なんて格好してんだよ!お前!!」
『え?あー…川で十四松と遊んでてさ』
翔太君に指摘され、今の自分の格好を思い出す。
びしょ濡れで服のあちこちに草がくっついており、翔太君より歳上なのにみっともない…
「廉ちゃん!!もう一回泳ごう!」
『うわ!!』
そんなこともお構い無しに、十四松は私の手を取ると、また川へと向かった。
いつの間にか十四松の顔には、笑顔が戻っていた。
「あ!!おい、手を離せ!!」
後ろから、翔太君が追いかけて来る。
「あはははっ!翔太も一緒に遊ぼう!!」
「は!?遊ぶわけないだろっ…うわあぁぁぁあ!!」
十四松は翔太君を持ち上げ、本人の制止を無視して投げ飛ばす。
結果翔太君もずぶ濡れになり、最終的には十四松と共に川遊びを始めるのであった。