第31章 ep5 君の特別
一曲のワルツが終わり、一時の拍手が会場を包む。
「大分、上手くなったじゃねぇか…」
「ユウこそ、エスコートは一流の男爵みたいだったわ…」
そう言って微笑むリナリー。
ユウはその白い手を取り、甲に口付けた。
ふと、視線を感じた。
貴婦人達の酔った視線ではない。
もっと貫くような…
ユウはハッとして振り返った。
まさか…っ
ユウの予想通り視線の先には、彼女の姿があった…
「…?」
「え…?」
彼女は、自分と目が合った事に気付くと、そのまま踵を返して走り出した。
「っ…」
「俺が行くさ!」
彼女を追おうとしたユウをラビの手が制した。
「ラビ?」
「周りは皆ユウの事見てるさ…今行ったら、えらい騒ぎになるさ」
だから自分が行く、と言ったラビをユウは見つめた。
「そんなもんどうだっていいんだよ」
と、なおも行こうとするユウ。
「だーかーらー」
ラビは頭を掻きむしる。
「俺がちゃんと誤解解くから、ユウは此処で待ってるさ」
ラビの独眼が、自信ありげにユウと絡み合う。
「俺の事、信じてさ。俺はユウの執事だろ?」
ラビは、ユウに微笑んだ。
ユウは、一つ息を吐くと、向き直った。
「…頼む」
「任せろさっ」
ラビは口端を釣り上げ、会場を走り抜けた…