第29章 ep3 貴族の事情
ーーー・・・
「おはよう、ミランダ…」
「あぁちゃんっ、おはよう」
起床時間が過ぎ、仕事衣に身を包んだが廊下に出た時、ミランダを含めた使用人達は慌ただしく動いていた。
「どうしたの?皆慌てて…」
「今朝、早朝にお客様から来訪の連絡があって…」
―――…
「ユウの風邪も、やっと治ったって時にお客さんか~」
「仕方ねぇだろ。さっさとしろ」
テーブルクロスを代えるラビを促すと、ユウは窓の外へと目をやった。
「ちっ…もう来た…」
黒い馬車が丘を駆けて来る。
あの中に、今回の客人が乗っているのだろう。
「そう言えばユウ、そのお客さんに会った事あるんさ?」
「ある。8つの時、彼女が2歳のバースデーパーティーに父上と行った」
淡々とユウは答える。
「だが正直、10年も前だ。ファミリーネームはわかっていても、ファーストネームは思い出せねぇ」