第27章 ep1 昼下がりの出会い
穏やかな昼の午後、青年はアフタヌーンティーと父とを交互に見つめた。
その切れ長の視線に気づいたのか、優雅に髭を生やした男は、眼鏡の奥で優しく微笑んだ。
「どうしたんだい?…東洋のティーだったんだが…合わなかったかな?」
そう尋ねられると、青年はふと我に返って首を振る。
「いえ。とてもおいしいです、父上」
「…君はいつから、私の事をパパと呼ばなくなったんだろうね…」
そう言って、男は悲しそうに目を細める。
そんな父親を、青年はカップに唇を押し当てたまま、静かに睨みつけた。
「…18年生きてきましたが、貴方をそんな風に呼んだ覚えは一度もありません」
息子の射抜くような視線に、男は両手を上げた。
「ハハハッ…冗談だよ。そう怒らないでくれ…」
そう言いながら男は腰を上げた。
「…もう行かれるのですか?」
「うん。船の出発が夕方だからねぇ…そうのんびりとはしてられないんだ」
なら最初からのんびりと息子を相手にお茶などしなければ良いものを…と、にわかに思った青年だが口には出さなかった。
「悪いけれど…留守を任せるよ」
「わかりました。どうぞお気をつけて…」
息子の素っ気ない態度に、情けなく顔を歪めながら、男は荷物を背負った。
宿泊時の着替えは、あらかじめ馬車に積ませてあるのだが、これだけはいつも肌身離さず持ち歩いている。
溢れ出しそうなのは絵画の道具、絵かきは父の趣味だった。