第23章 Moments アレン切裏パロ
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「いらっしゃいませ」
毛並みのよく磨かれた馬車から降りたのは、少女だった。
だが自分のような者とはまるで違う…
深緑の艶やかな髪を二つに束ね、高素なドレスを細身に纏った美しい少女。
自分なんかとは…
「アレン君っ」
少女はドレスをたくし上げ、優雅に階段を上がって来る。
整った白い顔には綺麗に笑みを浮かべて…
のすぐ脇を、甘い香りを残して通り過ぎた後、彼女はアレンに抱き着いた。
「久しぶりね、アレン君」
「そうですね…背が小さくなりましたか、リナリー?」
アレンの口元にも笑みが浮かび、彼の手が、華奢な背中に回る。
それを見ると、ただ一層、胸が苦しくなる…
仕方がない…
これが現実…
リナリー・リー嬢…アジア系で、達者に英語を話す貴族の御令嬢。
貴族には貴族の嫁を…
当然貴族であるアレンにも、その地位の人物は必要な訳であり…
それが、リナリー嬢である。
生まれる以前から、定められていた…
アレンの、婚約者…
「アレン君が大きくなったんでしょう?」
「そうですか?あまり自覚はありませんけれど…」
身体を離してもなお、愉しそうに
優雅に話す二人…
お似合い、という事なんだ…
たとえ政略結婚であるとしても
自分には、決して入る事のできない世界…
嫉妬という醜い邪心に、心が焼かれ、焦げ付く…
そう、美しいものは…
自分の憧れているものは、自分には届かないから美しいのだろう…
アレンとリナリーが、こうも輝いて見えるのは、
私には叶わないから…