第21章 恋いしくて 神田切夢【Time goes by続編】
そう、知っていた。
が妊娠していた事…
俺の子を…授かってくれていた事を…
迷惑だろうから、と俺には打ち明けなかったが、食事の量の変化や、婦長とよく会話している所を見かけた…
コムイに出産を頼み込んでいた事も…
リナリーと子供の名前を考えていた事も…
不安だっただろう…
独りで眠る事が…
でも俺は側にいてやれなかった…
どうして?
どうして…
心のままに愛せなかった?
怖かった…
もう一度、お前の側にいる事で、愛しすぎて…壊してしまうんじゃないかと…
臆病だった…
そんな俺の子を、育てる決心がついたのは、まだ俺を愛してくれていたからなのか?
その答えも…もう、聞けない…
当たり前のお前の笑顔…怒った表情も、泣き顔さえも…
もう、記憶の中だけのもの…
…お前は…
お前は、もう死んでしまった…
でも、
「お前にこんな狭い箱は似合わねぇよ…」
百合の花に囲まれた白い身体を抱き起こし、自分の胸に納める。
それが、お前にしてやれる…
最後の愛のカタチ…
すっとの頬に手を添え、色を失った唇に自分のを重ねたのは…
まだ…
「お前が眠る場所は」
お前が
「…此処だろ…」
恋しくて…
「……」
彼が零した涙が愛しき人の頬を伝えば…
それは…
キミも泣いているようで…
また、名前を呼んでしまうんだ…
…恋しくて
心に嘘が…つけなくて
…End