第16章 HEAVEN クロス切裏
カランカラン…
落ち着いた雰囲気の店内に響くベルの音。
カウンターで酒を割っていた女店主:は顔を上げ、入ってきた人物を向いた。
「いらっしゃい……こんばんは、クロス様…」
淡々としたブーツの床を踏む音と共に、その人物はカウンターに近づいて来た。
「よう。相変わらずな美人っぷりだな、嬢」
「その呼び方は止めて下さい。今はもう立派な此処のオーナーなんですから」
困ったように笑みを浮かべて、はクロスを見つめる。
「悪い悪い。
ついこの間まで、豪奢な屋敷に住んでたお嬢様が、こんな夜の街で働いてるんだもんな。大したもんだ」
どっかりとカウンター席に腰を下ろし、クロスは煙草に火をつける。
「ほとんど貴方の為に在るようなものですけどね」
そう言って、彼がいつも注文するロマネ・コンティを出す。
の生まれた家はアジアの中でも名の知れる名家で、彼女も数年前までは生粋のお嬢様として屋敷に住んでいた。
ある日、旅行中の船上でアクマに襲われていた所を彼に助けられ、以後屋敷を飛び出して彼について行ったのだ。
クロスを愛したは、彼の仕事を知り、彼の役に立つ為にサポーターとして夜の街で情報を集めている。
クロスは度々の元に現れて、彼女からのアクマやノアに関する確かな情報を得ていた。
「今日は何をお聞きになられに来たんですか?」
「あぁ、いや…今日は情報収集じゃない」
「………?」
珍しい…彼が情報収集以外で自分を訪ねるなんて
「今日で確か…23になるだろう?」
「…っ!覚えていて下さったんですか?」
パァッと少女のように口端を釣り上げ、自分の誕生日を覚えていてくれた愛しい人を見た。
愛しい人は自分を見ようとせず、煙草を吹かしていた。
「まあ、今までお前の情報は役に立って来たしな。褒美としてやる…」
そうやって、クロスは懐から小箱を出し、に投げ渡した。
はそれを両手で受け取ると、綺麗に包装されたそれを開けた。