【テニプリ】a short story.【短編集】
第2章 【幸村】日もいと長きに徒然なれば
千花と連れ立って、帰り道の川原を歩く。いつもは使わない道だけど、今日は部活がテスト休みで時間もある。ゆっくり帰ろう、そう千花を誘うと、嬉しそうについてきた。
「千花、俺が贈ったヘアオイルをちゃんと使っているんだね」
「もちろん、そんなにわかるかしら?」
「うん、前と輝きが違うからね」
繋いでいない方の手で千花の髪を一房掬って、さらさらと弄ぶ。太陽の光をキラキラと反射する黒髪はビロードのようだ。
「偉いえらい」
言いながら頭を抱き寄せ、髪にキスを落とすと、何とも艶やかな笑みを浮かべ、俺の方を見つめる千花。外でこんな事をしても、照れなくなって久しい。随分素直に喜びを表してくれるようになった。
俺と真田、そして千花は所謂幼馴染みというやつで。真田は彼女に庇護欲のようなものを感じていたようだけど、俺は違った。
その白い肌を守るため、少しでも外に出る前には日焼け止めを塗るようにさせ、俺がいない時もそれを徹底するよう約束した。
すらりとした手足が更にしなやかに伸びるよう、毎晩柔軟体操は欠かさないよう言い含めた。
その小さくて形の良い唇が綺麗な言葉だけ紡ぐよう、お勧めの本を読ませ続けた――これに関しては残念ながら、学力には繋がらなかった様だけれど。
一つの種が美しい花を咲かせ、実を結ぶように。水を、肥料を、日光を与え、風に倒れぬよう手を添えて見守ってきたのだ。
そして千花は成長し、匂い立つような美しい女性になっている。一緒に居るのが当たり前のようだった俺と、恋人同士になるのは当然の流れだった。テニス部にはファンが多いけれど、俺の彼女で、しかも真田の幼馴染みとあれば、やっかむ輩もすぐに諦める。
昔から一緒に居る真田が惚れてしまわないのが不思議な位だが、かえって良かったとも言えるだろう。もし俺と同じ思いを抱えてしまったら最後、彼には夜道には気をつけるように――と言ってやるしかない。