【テニプリ】a short story.【短編集】
第2章 【幸村】日もいと長きに徒然なれば
――千花っっ!!!と真田の怒鳴り声が響き渡る。俺の椅子の陰に隠れるようにしゃがみ込んでいた千花は、びくん、と震え、怯えたような目で俺を見上げた。
俺の所にいたらすぐに見つかってしまうのに、無意識に此処に来てしまうのだ、と以前言っていたか。もう数え切れない程繰り返されているやり取り、いい加減真田の勢いにも慣れたらいいのに――
苦笑しながら、可哀想なほど怯えている彼女の頭を撫ぜてやると、途端に気持ちよさそうに、まるで高級な猫のように目を細める千花。しかし安穏な時間は長くは続かず、案の定怒り狂った真田がやって来た。
「千花、逃げても無駄だぞ…定期試験前の勉強を見てやると言っているだろう!」
「い、いらないわ…精市くんが見てくれるんだから」
「そう言って、お前達はどうせいつもだらだらとしているんだろう?」
今回こそは逃がさんぞ、と語気を強める真田。ずいずいと迫られて、千花はすっかり縮こまっているので、助け舟を出してやることにする。
「心外だね、真田。俺達はいつもちゃんと勉強しているよ?」
「むぅ、ならば何故、いつも落第点ぎりぎりの点数ばかりなのだ」
――それが、千花の努力の結果なんだよ、と。彼女を悲しませないために、言葉には出さなくとも態度には出してみる。流石の真田も何となく察したようで、微妙な表情を浮かべている。
「それとも、真田?もしかして俺と千花の邪魔をしたいのかな?」
そうにっこりと微笑んでみると、真田の顔が心無しか青ざめる。
「ふ、不純異性交遊なぞ…たるんどる」
そして心持ちボリュームを落とした声で、そう言うと。千花がすっと立ち上がり、何とも申し訳ない表情を浮かべた。
「ごめんなさい、弦一郎くん。三人でお勉強したいのは山々だけど、折角のお休みだから精市くんと一緒にいたいの」
でも、弦一郎くんに心配かけないように、次のテストは頑張るわ――そう微笑んだら、それでいつも通り、真田のお説教はおしまい。結局真田も、千花には弱いのだ。