【テニプリ】a short story.【短編集】
第2章 【幸村】日もいと長きに徒然なれば
「精市くん、あの…」
「ん、どうしたんだい?千花」
俺と繋いでいた手を離し、もじもじと指を弄び、言い淀む千花。細くすらっとした指がゆらり、と縺れては離れるのをじっと眺め、彼女の言葉を待ってやる。すると漸く決心が固まったようで、その指を丸め込み握り拳を小さく作ると、俺を見上げ口を開く。
「弦一郎くんには勉強する、と言ってしまったけれど…久しぶりの休みだから、精市くんと一緒に居たいの」
「…なんだ、そんな事」
思わず笑みを零し、千花を見つめ返す。俺が千花の願いを叶えなかったことなんて殆どない筈なのに、不安げな表情を浮かべる彼女を安心させるために。自分の言ったことを曲げない信念の強さは、俺と一緒にいる事で培われた価値観だ。
「勉強しながらでも、一緒に居れるだろう?」
「ち、違うの…ゆっくりお話したり、お菓子を食べたり、こうしてお散歩したりしたいの」
すこし意地悪をしてやると、懇願されたのは何とも小さなささやかな願い。普段通りの日常を大事にする事こそが美徳だ、と、これも俺の考え方が共有されている。
外見も内面も、俺好みの女性に育ってくれていることに目眩がするほど幸せを感じながら。
「わかったよ、今日は千花の言う通りにしよう」
千花が零れるような深い笑みを浮かべている事に満足して、また手を引き歩き出す。そうして俺は今日も、千花をぐずぐずと甘やかして、俺から離れられなくしてやるのだ。