【テニプリ】a short story.【短編集】
第11章 【海堂】笑顔の裏側で
「千花先輩、もう終わるんで…送るっス」
「ほんと?お疲れなのに、有難う、薫くん!」
ほら、また私が笑うと顔が赤らんだ。練習終わりで疲れてるだろうに、私の家まで送る、と言って聞かない薫くん。彼の負担になっていないか気になる所だけれど、これまたとないチャンス、と有難くお受けしている。
隣に並んで歩く。特に会話も無くて、私の一方的な世間話に相槌を打ってくれるくらい。それでも、テニス部という共通項があれば、あの濃いメンバーが揃っているのだから話題には事欠かない。
「そういえば、もうすぐまたランキング戦だね?」
「そうっスね」
何でもないような口調で答える君の顔に、少し陰が刺したのを私は見逃さなかった。
「緊張、する?」
「…まぁ、多少は」
「これだけ練習を積んでるんだから、大丈夫だよ!私もめいいっぱい応援するから、勝ってよね」
「…っス」
嬉しいのを隠しきれないのか、少し緩んだ口元。私まで嬉しくなってくる。表情の変化が薄い君の、笑顔に気づける度また、この気持ちは深まっていく。
「千花先輩、」
「…ん?どーしたの、薫くん」
私の家はもうすぐそこだ。いつもなら、この大通りで薫くんは引き返していく。それなのに、口籠もって。どうやら一緒に信号待ちをしてくれるらしい薫くんの顔を見上げながら、言葉の続きを待つ。薫くんはこちらをちらり、と見てすぐに顔を逸らした。
「ランキング戦が終わったら、言いたい事があるんスよ」
「…うん」
「…聞いてくれますか」
今でもいいのに、なんて言いかけて、すんでの所で飲み込む。彼の目が不安げに揺れる。あぁもう、私が言いたいくらいなのに、でも。
「…勝ったら、聞いてあげるね。楽しみにしてる」
「勿論、それが前提に決まってるじゃないスか」
ふしゅ、と。安堵のように息を吐く薫くんにくすくす笑うと、彼が少し睨んできた。でも、照れが混じってるから全然怖くない。青信号に変わった横断歩道を二人で渡る。いつもより少し長めの逢瀬に、私の気持ちはふわふわと宙に浮く。