【テニプリ】a short story.【短編集】
第10章 【跡部】Have a blast!
そして早業と言わざるを得ない、あっという間に私はドレスアップされて跡部邸内にいた。
夏合宿の時もこんな事があったけれど、その時とは全然違う装いだ。黄色いドレスの、上は胸元でざっくりとカットされていて、小さなビジューが沢山ついている。黒くて太い大きなリボンが腰に結ばれ、その下は膝より少し短いほどの丈。裾はフレアになっていてひらひらと波打っていた。
首元には腰の物と同じ素材で出来たチョーカーが巻かれている。そしてこれまた同じ素材の、二の腕くらいまであるグローブを付けてもらった。手首にはブレスレットのようにぐるり、とビジューがついていて、アクセサリーなしでもとても華やかだ。
化粧も少ししてもらったけれど、その時は後ろに例の女性が立っていて、メイドさんたちに色使いなんかを細かく指示していた。そして言う通りに出来あがった顔は、本当に自分だろうか、と思うほど。
いつもより目は大きいし、肌は白いし、コンプレックスの薄い唇はぷるぷるツヤツヤで、付けたこともない真っ赤なリップは意外に似合っている気がした。
メイドさんやミカエルさんの態度で、どうやら彼女は跡部の縁者らしい、と気付いていた。そうだと思ってみれば、どことなく跡部に似ている。しかし瓜二つ、という訳でもない――年の離れた姉弟だろうか。それなら、彼女が「景吾の部屋で貴女の写真を見たの!」とはしゃいでいたのも頷ける。
跡部の家にはいつも跡部以外の家族がいないから、お誕生日には会えたんだ、良かったな、なんてほっとする――とはいえ、落ち着いた訳でも、納得したわけでもなかった。
「あ、あの、何ですか!突然っ」
「まぁまぁ、景吾は多分庭の東屋に居るのよ、こちらにいらして!」
話を聞いてくれないのもお金持ち――いや、跡部家特有の性質なのだろうか。そう思いながら彼女に引きずられて行く。
「あの、パーティーは…」
「途中で早めに切り上げてしまったのよ、あんまりに景吾がつまらない顔をするから!でも私反省したのよ、折角のお誕生日くらい、好きにさせてあげるべきだったわ」
全く話の読めないまま、庭の端まで来ていた。先程より少し空は赤くなっていて、流石に肌寒い。目の前には白い石造りの東屋がある。