【テニプリ】a short story.【短編集】
第9章 【丸井】懐かしくて愛しくて
ブン太とは、一年の時から一緒のクラスだった。いつもコンビニの新作スイーツを抱えている彼と、負けず劣らずのスイーツマニアな私が仲良くなるのは、必然のようなものだった。
お互いオススメのスイーツなんかを教え合っている内、どんどんブン太の事が好きになっている事に気付き。二年も同じクラスだと知った時には、泣いてしまうほどだった。
そして、二年の秋。このスイーツフェスタに誘われ、その帰り道に告白されて。だよね、という何処か納得に似た気持ち。ブン太と付き合う、という事実はまるで予定調和のように、当然であったように、すとんと胸に落ちて来たのだった。
「むが!!!!?」
「なぁーにぼけっとしてんだよ」
いつの間にか戻ってきていたブン太。思い出に浸っていた私の口に、ケーキの切れ端が突っ込まれる。
「新しいケーキが出てたから取ってきてやったぜ、こういうの好きだろぃ」
容赦なく突っ込まれた大きめの破片を必死で咀嚼しながら、私のお皿にどん、と盛られたその正体を見る。スポンジの上に可愛い薄紫のクリームが搾られたそれは、ほんのり甘いお芋の味がして、正しく私の好みだった。
「さふがっ!わかっふぇる」
「だろぃ?」
もがもがとお礼を述べると、いつものドヤ顔を浮かべ、また機嫌よくスイーツを食べ始めるブン太を見やる。
さっき思い出に浸っていた、けれど、正直ブン太と付き合う前のことはよく思い出せなくて。それだけ彼と過ごす日々は特別で、濃密だ。付き合い出した時と何も変わらない、一緒に居るのが当たり前で、心地よくて、しっくり来る。欠けることなど、最早想像も出来ない――
「もーらいっと」
「あ!ちょっとそれー!楽しみにしてたのに!」
「なんだよ、ボーッとしてるからだっての」
ブン太の口に吸い込まれていくケーキを恨めしげに見つめる。
「何よ、同じの取ってきたらいいじゃん!」
「だぁかぁらぁ、千花がボーッとしてるのが悪いんだっての!」
少し拗ねたような口ぶりで、どんどんスイーツを平らげていくブン太に、苦笑する。もし嫉妬してる相手は昔の君だよ、なんて伝えたらどんな顔をするだろう?