【テニプリ】a short story.【短編集】
第9章 【丸井】懐かしくて愛しくて
赤、茶、黄色、ベージュ、白。
食欲を唆る鮮やかな色がテーブルの上に所狭しと並び、うっとりしながら写真を撮りまくる。
先に手をつけるのはご法度だ――順番を間違えては、彼の機嫌を損ねてしまう。一通り撮り終わった所で膝にハンカチを置き、お絞りで手を拭き、いそいそと準備を進めていると、目の前にどんどんっと大皿が二つ置かれた。
皿の上には色合いまで考えられたのだろうか、綺麗に宝石のようなスイーツが整列していて、成程、戻ってくるのに時間がかかる訳だ――と苦笑する。
「よぉ千花、待たせたな。先に食っちまってねぇだろうなぁ?」
「当然でしょ!ちゃんと待ってたよ」
そりゃ偉い偉い、と咥えていたフーセンガムをナプキンで拭い笑う、彼。丸井ブン太は、付き合ってちょうど1年になる、私の彼氏だ。普段なら寄り付きもしないような街中のホテル、その中の秋のスイーツフェスタ、と銘打たれた会場に入ってから早くも30分ほど。ゆっくりスイーツを選び、盛り付け、やっと二人共落ち着いて席に着く。
「せーのっ」
「「いただきまーーーすっ!!!」」
声を合わせて挨拶をしたら、そこからは暫くお互い無言だ。目に付いたスイーツから片っ端に口に入れていく。ビュッフェ形式だから急ぐ必要も無いのだが、何故か気が逸る。
その中で私は、ケーキの上に鎮座していた、美しい飴細工に目を取られた。キラキラと透き通る飴色のそれを持ち上げてみると、向こうが透けて見える。少しでも力加減を誤ったら、すぐに崩れてしまいそうだ。
「あーっ!千花!それ何処にあったんだよぅ!」
「え、ふつーに並んでたよ?」
「ちくしょー、俺とした事が見逃したか…どの辺りだよ!?」
「ちょ、ちょっと!お皿が空いてからでも…」
「ばーか、無くなったら後悔すんだろっ!」
「はぁ…ドリンクバーの横あたりだよ」
急いで駆け出すブン太を苦笑しながら見送る。やっと落ち着いた、のは一瞬だったようだ。飴細工を口に運ぶと、パリッとした感触のあと、ほろほろと口の中で溶けていった。