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【テニプリ】a short story.【短編集】

第7章 【真田】寂しそうな微笑





「む、千花…少し待っていろ。赤也、千花についていてくれるか」


そう言うと、突然走り出す真田。急な事で驚く私に、赤也くんが近寄ってきて声をかけてくれる。

「どーしたんすか、何か暗いッスね」
「そう見える?」
「そりゃもう」
「だよねぇ」


そこまで親密でもない赤也くんですら、私の感情の機微に気付くのに。真田は私の顔色なんて読めやしなくて。でも私もやっぱり彼氏の前ではいい格好をしたくて、ちょっと疲れたな、肌寒いな、なんて言えず。


「ちょ、見てくださいよ千花さん!!」


赤也くんの声に重たい顔を上げると、横断歩道を渡るお婆さんの手を取り、先導する真田。俺、あんなのドラマの中でしか見たこと無いっスよ!!と興奮する赤也くん。そしてまた、溜息をつく私。


「私、あのお婆さんみたいに真田とくっついたこと、無いかも」
「…は、マジ!?」
「マジマジ、激マジよ」
「手繋いだり?ハグとかチューは!?」
「そんな事する真田、想像出来る?」


うげ、と顔を顰める赤也くん。人の彼氏に対してなんて顔、チクってやろうか。そう考えながらも、ほとほと同意だ。付き合えば、こんな真田も甘い言葉を掛けてくれたりするのかな?嫉妬したり、執着したりしてくれるのかな――なんて、甘い期待はとうに捨てた。

――ただ、


「カッコイイ、よねぇ」
「…まぁ、オトコとしては見習わなきゃとは思うんスけどね、こーゆーとこはね」


赤也くんが言うように、ドラマの中から飛び出てきたヒーローみたいに、真っ直ぐで熱くて、飾り気のない真田が大好きで。余計に、こんな欲求不満めいた自分が汚く思えて来るのだ。切ないけれど、惚れている方が負けとはこう言う事を言うのだろう、なんて達観しそうになる。

戻ってきた真田は待たせたな、と頭を下げた。


「ううん、いい事したね」
「こんな事、当然の事をしたまでだ――ではな、赤也」
「ウッス!副部長、千花さん、また」


赤也くんと別れ、家路に着く。大きな頼りがいのある背中を見つめる。本当に、私には勿体ないくらい、よく出来た彼氏なんだと分かっている。分かっていながら、止まらない溜息が煩わしかった――

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