【テニプリ】a short story.【短編集】
第7章 【真田】寂しそうな微笑
そんなこんなであっという間に半日が過ぎ、今に至る。晩ご飯前にきっちり家まで送り届けてくれた真田の後ろ姿を見送り、また溜息。
今日だって、楽しくなかった訳じゃない。カッコいい真田も見れた。トータルすれば良い日だった筈なのに。こんな枯れた付き合いを思春期にしてたら、老後どーすんだ…そんなことを考えながら、また溜息をつきそうになる――その時、鬼気迫る表情で振り返りこちらに向かってくる真田に気付く。
「え、真田…!?」
枯れたって口に出してた?ご、ごめんなさい悪口言って!老け顔だから仕方ないか、なんて思ってないよ!!
どんどん近づいてくる真田に、思わず目を閉じる。すると唇に柔らかくて暖かい感触が、本当に一瞬だけ触れて、離れていった。
「す、すまない…」
恐らくビックリし過ぎてぽかーんとしている私に、真田が凄く困っている表情で声をかける。
「その、こう言ったことは順序を踏むべきだと思って居たのだが…赤也から連絡があって、」
真田が見せてくれるスマホの画面をのぞき込む。――預けてったのがオレだったからいいっスけど、他の男なら攫われてましたよ!なんて、赤也くんからのメッセージが、ほんの一分ほど前に届いていた。
「最もだな、と思ったら男避けをせねばならん、と…その、すまなかった」
いつものハッキリとした物言いは影を潜め、珍しく口篭る真田。対して私はと言えば、ムズムズとにやけそうになる口元を抑えられているかどうかも怪しかった。
「真田っっっ!!」
思い切り胸元に飛びつく。少しよろめきながらも、しっかりと受け止めてくれる真田に縋りつく。見上げてみると、驚きすぎて声も出せないらしい。少し顔が赤く見えて、それも嬉しくて仕方が無い。
恐らく順序立てて、と言うならキスよりハグの方が先だろうから、事後承諾でも許してくれるだろう、と腕の力を強めると、真田も少し躊躇いながらも、抱き締め返してくれる。
邪魔者なんて一瞬でも思ってゴメンね、と、心の中で赤也くんに謝りながら。そう、真田が相手なんだから、恥ずかしくても声に出さないときっと伝わらない――
「あのね、ずっと、こうして欲しかったの」
その言葉に、ほんの少しだけ柔らかく微笑んでくれた真田は、今まで見た中で一番格好良くて、私はまた惚れ直してしまったのだった。